「カワイイ」文化、フィリピンも夢中

-アニメ・コスプレ・AKB48 市民生活に余裕、趣味の幅広がる 

 

 米国文化の影響が色濃いフィリピンで、日本の「カワイイ」文化が広がっている。コスプレやアイドルグループなどがインターネットを通じて浸透して おり、AKB48のファンクラブも結成された。

内需主導の経済成長で所得水準が上がり、市民の生活に余裕が出てきていることが背景の一つ。関係者は「両国 の将来のためも、互いの理解を深めることが必要だ」と指摘している。

 

 マニラ首都圏の米国系大手銀行に勤める女性、ミシェル・ディーさん(30)がコスプレを始めたのは3年前。小学生のころから日本のアニメに興味を持ち、コスプレの存在はネットで知った。「好きなキャラクターになりきれるのが楽しい。皆に注目され、輝ける気がする」

 

 日本大使館が7月に初めて開いたコスプレコンテストに参加した。応募者は38人で、予想を上回る盛り上がりを見せた。コンピューター技師の男性、 アーノルド・ラレゾさん(35)は娘のボレンちゃん(9)のため、5千ペソ(約1万円)かけて「機動戦士ガンダム」のコスチュームを作成。「ガンダムは小 さいころから大好き。娘と一緒に楽しめる」と笑顔だった。

 

 東南アジア諸国連合(ASEAN)で唯一のキリスト教国であるフィリピンは、米国統治時代の影響を色濃く残す。米国音楽が流行、バスケットボール が最も人気のスポーツ。米国文化が「カッコイイ」と受け止められる一方、日本発の「カワイイ」文化は、テレビで日本アニメが放映されていることに加え、こ こ数年で急速に普及したネットで火が付いた格好だ。

 

 フィリピンでは、海外出稼ぎ労働者からの年間200億ドル(1兆5800億円)にのぼる送金を原動力に国内経済が拡大。所得水準が上がり、コスプレなどお金のかかる趣味の幅が広がっている。

 「AKB48をフィリピンに呼びたい」。こう話すのは、マニラ首都圏に住む男性、カーマイケル・ソリアさん(35)。2010年にAKB48の ファンクラブを結成。会社員から高校生まで、会員は1700人にのぼる。AKB48に関するニュースを翻訳して発信するほか、フェイスブックを通じて在日 フィリピン人らと情報交換している。

 

 海外ではインドネシア・ジャカルタの「JKT48」、台北の「TPE48」や上海の「SNH48」が発足。ソリアさんは「スタイリッシュな米国の 歌手と違い、AKBはカワイイところが魅力。マニラでも姉妹グループができたら、日本好きのフィリピン人がもっと増える」と期待する。

 日本文化の輸出がきっかけとなり、互いの理解が深まることは、将来的には両国の人的交流の土台となる可能性がある。今後働き手の減る日本にとっ て、フィリピンは労働力の供給源になり得る。日本大使館がイベントなどを通じて文化交流を後押しする背景にはこうした事情がある。

 

 看護師や介護福祉士だけでなく、英語教師としても注目されるフィリピン人は、日本にとって重要な隣人だ。国際交流基金マニラ日本文化センターの高取秀司所長は「アニメやJポップのファンが日本語や文化に興味を持ち、日本の大学に進学するケースもある。様々な分野での文化交流が、互いの理解や信頼関係を深めていくことにつながる」と指摘している。 

- 日経新聞(マニラ=佐竹実)